かかわり合って、ちゃんとここにいられる

2018年1月27日

今回お話をお伺いしたのは「松本養鶏場」の松本崇さん。
松本養鶏場では、にわとりが自由に動き回り、ストレスを発散できる「平飼い」飼育が行われています。
飼料には米もろみ粕を使用。飼料用の無農薬米を発酵・蒸留させた搾りかすで麹や酵母が豊富な米もろみ粕は、にわとりの腸内環境を整える効果もある良質なエサです。
ほかにも、地元産の大豆やおから、牡蠣の貝殻やはじき野菜なども使われています。

鶏糞は田んぼや畑で肥料に。休耕田を利用した飼料米から様々な資源を作り出し、食用米へと循環させている「マイムマイム奥州」が取り組む循環型農業の一役を担っています。

そうして育てられた、にわとりの産む「まっちゃんたまご」は自然なたまご本来の味わい。
臭みがほとんどないことから「塩で食べるたまごかけごはん」など、生たまごの状態に最低限の調味料のみを使っておいしく食べることができます。
 
地域の食材をエサとして使用し、地域の循環型農業も担う「たまご屋さん」として松本さんには奥州市がどのように見えているのか。「奥州市について思うことはありますか?」という問いに「あらためて言われると難しいなー」とじっくり考えて話し始めてくれました。



「奥州市はバランスがいい場所。農村地域と市街地が近いから、農村地域のものをすぐ市街地に届けることができる。市街地に住む人は田んぼや畑がないから、農産物を気持ちよく買ってくれる。お互いにウィンウィンの関係性が成り立ちやすいまちですよね」

奥州市は平成18年に水沢市、江刺市、前沢町、胆沢町、衣川村の5市町村が合併して誕生しました。
県内では、盛岡市、一関市に次ぐ人口・面積を有し、住宅街や大型店が並ぶ市街地もありながら、自然が豊かで田んぼや畑などが充実している農村地域もあります。どの地区も1時間あれば行き来が可能。松本さんはその「中途半端な都会・田舎」具合をバランスがいいと話します。

「その半端な感じが嫌な時もありました。とことん田舎になって田舎の魅力を発信するか、とことん都会になって、街が賑わっているか。どっちかにならなければいけないんじゃないかと思っていたけど、最近この半端さが良いなって。仙台や東京に田舎のものを届けるんじゃなくて、この地で育てた物をこの地の人に届けることができる。ひとつの市で需要と供給を解決できるっておもしろいなーって」

現在、まっちゃんたまごの販売先は市内のみ。産直での販売や飲食店・個人宅への配達を行っています。新鮮なたまごを自らの足で顔の見える範囲の人たちに届けることができることを松本さんは魅力に感じています。


相手がほしいと言ってくれたものを、提供して、信頼関係が築かれていく

市内の多くの人に愛される「まっちゃんたまご」。しかし最初からうまく受け入れられていたわけではありません。
「にわとりを飼い始めた頃は、『たまご1個をいくらで売ったら、いくら自分に入ってくるか。そのためにはエサをいくら分買って』とかお金のことばかり見ていたんですね。当時はたまごがなかなか売れなくて、なんで売れないんだろう。みんなは高いたまごを買ってくれないんだ。とネガティブなことしか考えられなかったんですね。このまち、やだ!くらいの勢いもあって」と松本さん。

今のように地域の人から求められるたまごになったのにはあるきっかけがあったと言います。

「ある時、久仁江さん(マイムマイム奥州代表)が歩み寄ってきてくれたんです。『こういうたまごをやっているんだ、いいね。ぜひうちで使わせて』と。買ってくれる人から歩み寄ってくれることがあるんだなって思って。うちのたまごを気に入って買ってくれることが嬉しくて、それからは自分がどう稼ぐかよりも、人とのかかわりが重要になってきたんです。
届ける先の人が喜んでくれるために、自分は何ができるか。そうして喜んでくれる人にたまごを届けていたい。と考えるようになって。そうしていくと段々と求めてくれる人が増えてきたんです。相手がほしいと言ってくれたものをこっちが提供して、信頼関係が築かれていく。その間にあるものがお金だったんだなって気づきました」

お金から人へ意識が変わると、自然にお金も付いてきて「自分の好きな事で身を立てていける」という松本さん。
たまごを届けて、相手が喜んでくれること。そしてそれを仕事にできることにやりがいを感じています。
今ではたまごを配達した後に、お金を受け取るのを忘れて帰ってしまうこともあるほど。
たまごを自ら個人やお店一軒一軒に配達に回るのも、人と関わるのが好きな松本さんだからこそ、行なっていることなのかもしれません。

松本さんはそうして「好きなことを仕事にする」ことが奥州市では実現しやすいのではないかと考えています。
「私はこれをやりたいんです!これで仕事をしていきたい!って人だと、まちの人も協力的になってくれる。だから、そういう人たちが増えてきている気がします。
このまちの面白いところは、何かに突出した存在の人もいるんだけど、みんなそれを気づいていなくて。そういった魅力ある人達が、普通にいるんです。溶け込みすぎているからみんな気づけてないというか(笑)きっと威張らなくても、ちゃんとここにいられるんですかね。認めあって、足引っ張らないんですよね。ここの地域」

好きなことを日常的に行う人が増えて、それらを認め合う環境ができることで「威張らなくても、ちゃんとここにいられる」奥州市に変化しつつあるようです。

最後に「『にわとり』のことよりも、『人』のことを多くお話ししてくれましたね」と声をかけると
「にわとり、にわとりな感じではなくなってきたのかなー。もちろんにわとりもだけど、人と関わることも好きなんだね」と教えてくれた松本さん。
これまで他の方へのインタビューでも見えてきた奥州市の魅力である「人」との関わりを、松本さんはたまごを通して築き上げてきました。

松本さんが表現した「中途半端な田舎・都会」。このまちの人のことをこのまちの人自身が求めている、その需要と供給の関係が、ここで暮らす人だけでなく、ここに訪れる人にも広がっていったら?

人と人との関わりによって、きっとこれからも奥州市は変化していきます。