脈々と繋がれ、残されてきたもの

2018年1月12日

郷土料理等の優れた技術を有するとして岩手県から「食の匠」に認定されている若生和江(わこうかずえ)さん。
江刺区にある自宅に併設されたお弁当屋さん「やまんば工房」を営むほか、市内各地で伝統食の料理講習を開催し、地域の食文化継承に取り組んでいます。Walk on Soilでは奥州市で開かれる現地説明会(1月27、28日開催)の2日目に若生さんから「奥州市の食について」お話をいただく予定です。
それに先立って、「食」を通して地域の人と関わってきた若生さんに「このまちについて思うこと」を伺いました。

若生さんは料理講習を開催する一方で、自らも市内各地の料理教室に参加し、奥州市の郷土料理を学んでいます

伝えられ、残されてきた「やんべ」

「風土や自然、土地柄に人が組み合わさって、その場所のおもしろさができる。奥州市には、そんな場面がたくさんあるなと感じています。そのおもしろさは、『ここでしか食べることができない』とか『この人しかできないものがある』とかスペシャルなものではなくて。普通の暮らしの中のおもしろさというか。脈々とこの地域に住む人たちが繋いできたからこそ、残ってきているものですかね」

例えば、江刺区の郷土料理である「くるみ豆腐」。
江刺から京都にごま豆腐のつくり方を教わりに行った料理人が、地元へ帰ってくると、くるみの木が多いことに気づき「ここでは、ごまではなく、くるみを使ってくるみ豆腐にしよう」と作られ始め、地域に根づいたことが発祥の由来だと言われています。
この土地で生まれ育った”人”が、別の土地でごま豆腐のつくり方を教わり、くるみのとれる”風土”に戻ってきたからこそ編み出されたくるみ豆腐。その由来が言い伝えられていること。また、食べ続けられ郷土料理となっていることに、若生さんは魅力を感じています。

若生さんはそういった魅力を、市内各地での料理教室やイベントなどを通して、その地域の人と一緒に料理をつくることで味わってきました。

 

「その土地の郷土料理を一緒につくっていると、地域の方が「そういえば…」と言って話し始めてくれることがあります。なんでこういう料理が生まれたか、なんでこんな時期に食べるのか、どんな想いで作り続けられたか。また、その人がその時どんな風に話しているのかまでを感じ取ることができる。やっぱりそれって直接会ってこそ感じられるおもしろさですよね」
と若生さん。

若生さんが各地で料理をしながら教わっているのは、作り方や分量だけではなく、その料理と共に受け継がれてきた背景やストーリー、想いでした。

また、それ以外にも料理を継承していく上で重要なことはあると続けます。

「調べてわかることだけではなくて、やってみないとわからないことが重要で。作ってみないと、食べてみないととか。その時やってみないとわからないことって一緒に教わったり、作ったりしてるときに、すとんと伝わってくるんです。葉っぱが茹で上がってきて『そろそろですか?』『そろそろですね』で通じ合えるあの感じ。ひとことで言うと『やんべ』ですかね」

「やんべ」とは、この地域の方言で「いい塩梅」という意味。量や時間など具体的な数字ではなく、その時の“感覚”を表す言葉だと若生さんは捉えています。「やんべ」という言葉で伝えられ、残されてきた感覚を若生さんはこのまちのおもしろさだと感じています。

もうひとつ、若生さんがおもしろさを感じているのは、地域の人たちから「新しいことをやってみよう」とする意識が現れ始めたことです。

きっかけは若生さんが実行委員を務める「風土・food・風人」。

岩手の豊富な食材や郷土料理を食べる機会を持つことで、地元の人(風土)と外の人(風人)を繋ぎ、食のあり方や地域の食文化を再発見しようというコンセプトのもと2012年から毎年開催されています。

「風土・food・風人では、農家や料理人、鉄器に関わる仕事をしている人など、いろんな分野の人が一緒になって料理をつくります。普段違うことをしている人同士が協力すると、その場で新しいアイデアが生まれたりするんです。その経験から、違うことをしている人同士が出会うと『一緒に何かやってみようか』となる。さらには『やってみようかと考えているなら、やったほうがいいよね』って立ち上がりやすい雰囲気もできてきている気がするんです」

「でもね」と若生さんは続けます。

「もうちょっと伝わりやすく、より多くの人が来てくれるようにっていう『さらによくするための方法』が少なくて。その方法を提示できる人が来た時にもっと展開していける物事が多いんじゃないかな。今は育ってる途中の奥州市というか、楽しくなりかけの奥州市という感じ」

「風土・food・風人」の様子。

楽しみなこと、おもしろいことは、ある

「もう、ずっと好きなんです」と奥州市のことを終始楽しげにお話ししてくれた若生さん。まちのなかに楽しみなこと、おもしろいことを、どのように見つけてきたのでしょうか。

「見つけてきたというより、ある。ここにもこんなものがある、ここにもこんなものがあるって、カゴいっぱいに拾ってきた感じです。無理に探そうとするんじゃなくて、歩いていたら、ある。実際に使ってみたり食べてみたりしながら、拾い物をし続けてる人生ですね」

若生さんの言う「歩いていたら」は「ただ日常を過ごしていると」ではないと思っています。
その地域に根づいている、当たり前のことを実際に自分もやってみる。
そうして実際に体験した感覚を拾って、知れたことへの嬉しさや、まだ知らないことへの興味に、ワクワクして楽しい気持ちになっていく。若生さんの楽しげな雰囲気はそうして発せられているのかもしれません。

奥州市を歩いてみるからこそ感じられるものが、きっとその人それぞれに、ある。
自らの足で訪れて感じる体験を、ぜひ味わってみてください。